影像電荷を用いた静電界解析

2021年4月7日

問題

 電位は無限遠点を基準とする。

 誘電率 \(ε_0\) の真空中に半径 \(a\) の接地された導体球が存在する。図のように、導体球の中心が原点 \(O\) となるように \(x\) 軸を定め、\(x\) 軸上の \(x=d\) の点 \(A\) に電荷 \(Q\) の点電荷 を置く(ただし \(d>a\) である)。このとき導体球が真空中に作り出す電界を影像電荷によって表現しよう。

 導体球は接地されているので、導体球の表面のあらゆる点で電位が零になるという境界条件を満たす必要がある。そこで、図に示す導体球表面の点 \(B\) で境界条件を 満たすように、導体球の代わりにその内部の \(x\) 軸上の点 \(A’\) に影像電荷 \(Q’\) を置く。

 まず、点 \(A’\) の \(x\) 座標を \( \fbox {  (1)  } \) とすると、\(△AOB\) と \(△BOA’\) が相似となる。 辺 \(AB\) の長さを \(R\) とすると、点 \(A\) の点電荷が点 \(B\) に作り出す電位は \( \fbox {  (2)  } \) となるので、\(Q’= \fbox {  (3)  } \) とすることによって、点 \(B\) で境界条件が満たされる。相似条件は導体球表面の任意の点について成立するので、点電荷と影像電荷によって導体球表面のあらゆる点で境界条件を満たすことができ、影像電荷が真空領域に作り出す電界は、導体球が作る電界と一致する。ガウスの法則から、点電荷によって導体球に誘起された電荷の総量は、影像電荷と同じ \(Q\) となる。

 さらに \(x = -d\) の点に電荷 \(- Q\) の点電荷を置く場合には、\(x= \fbox {  (4)  } \) の地点に影像電荷を追加することによって、真空中の電界を表現することができる。このとき、二つの点電荷によって導体球に誘起される総電荷は \( \fbox {  (5)  } \) となる。

解答

(1)\(△AOB\) と \(△BOA′\) の相似条件

 三角形が相似のときは、対応する辺の比が等しくなります。

\begin{eqnarray}
\color{#ff5757}{OA}:\color{#5f84ff}{OB} \ &=& \ \color{#FF5757}{OB}:\color{#5f84ff}{OA’} \\[7px]
d:a \ &=& \ a:OA’ \\[7px]
d \: OA’ &=& a^2 \\[7px]
\color{#5f84ff}{OA’} &=& \frac{a^2}{d}
\end{eqnarray}

 なお、\( \color{#ff5757}{OA}:\color{#ff5757}{OB} \ = \ \color{#5f84ff}{OB}:\color{#5f84ff}{OA’} \) として計算しても問題ありません。

 \(△AOB\) と \(△BOA′\) は \( OA’ = \frac{a^2}{d} \) のとき、以下の式が成り立ちます。

$$
\left \{
\begin{array}{ll}
OA:OB = OB:OA’ \\[4px]
\angle AOB = \angle BOA’ & (共通)
\end{array}
\right.
$$

よって2組の辺の比とその間の角がそれぞれ等しいため、点Bが円周上のどこにいても必ず相似になります。

(2)点 \(A\) の点電荷が点 \(B\) に作り出す電位

 題意より、誘電率\( ε_0 \) 、点電荷の大きさ\( Q \) 、\(AB\) の距離 \(R\) です。作られる電位を\(V\)とすると、点電荷による電位の公式より、

$$ V= \frac{Q}{4πε_0} \frac{1}{R} $$

となります。

(3)影像電荷\(Q’\) の値

 境界条件から導体球の表面の電位が零になる必要があります。そのため点\(B\)で、

\begin{eqnarray}
(点~A~による電位)+(点~A’~による電位)&=& (点Bでの電位) \\[3px]
&=& \ 0 \tag{3.1}
\end{eqnarray}

が成り立ちます。点 \(A\) による電位 \(V\) は(2)で求めたので、点 \(A’\) による電位 \(V’\) を求めます。

 (2)で使った点電荷による電位の公式を使いたいので、\(A’B\) を求めます。\(△AOB\) と \(△BOA′\) が相似なことを利用すると、

\begin{eqnarray}
\color{#ff5757}{OA}:\color{#5f84ff}{OB} \ &=& \ \color{#FF5757}{BA}:\color{#5f84ff}{A’B} \\[7px]
d:a \ &=& \ R:A’B \\[7px]
d \: A’B &=& aR \\[7px]
\color{#5f84ff}{A’B} &=& \frac{aR}{d}
\end{eqnarray}

となります。\( \color{#ff5757}{OB}:\color{#ff5757}{BA} \ = \ \color{#5f84ff}{OA’}:\color{#5f84ff}{A’B} \) として計算しても問題ありません。

 よって点 \(A’\) による電位 \(V’\) は、\( V’= \frac{Q’}{4πε_0} \frac{1}{A’B} \) となるので(3.1)に代入すると、

$$ \frac{Q}{4πε_0} \frac{1}{R} + \frac{Q’}{4πε_0} \frac{1}{A’B} =0$$

\begin{eqnarray}
\frac{Q’}{4πε_0} \frac{1}{A’B} ~&=&~ – \frac{Q}{4πε_0} \frac{1}{R} \\[7px]
\frac{Q’}{A’B} ~&=&~ – \frac{Q}{R} \\[7px]
Q’ ~&=&~ – \frac{Q}{R} × A’B \\[7px]
&=&~ – \frac{Q}{R} × \frac{aR}{d} \\[7px]
&=&~ – \frac{a}{d} Q
\end{eqnarray}

と求まります。

(4)追加する影像電荷の \(x\) 座標

 \(x=-d\) に電荷 \(-Q\) の点電荷 \(C\) と、影像電荷 \(C’\) を置くと、下図のようになります。

 境界条件から点 \(B\) での電位は零なので、

\begin{eqnarray}
&&(点Aによる電位)+(点A’による電位)+(点Cによる電位)+(点C’による電位) \\[7px]
&=& (点Bでの電位) \\[7px]
&=& \ 0 \tag{4.1}
\end{eqnarray}

が成り立ちます。ここで(3)で計算した通り、導体球上では(3.1)が満たされています。そのため(4.1)は、

$$(点~C~による電位)+(点~C’~による電位)= \ 0 \tag{4.2} $$

となります。

 (4.2)よりBの電位を零とするには、点 \(C\) と点 \(C’\) による電位のみを考えればよいことが分かりました。また、点 \(C\) は点 \(A\) と左右対称になっています。よって点 \(C’\) も点 \(A’\) と対称になればよいので、点 \(C’\) の \(x\) 座標は、

$$ x = – \frac{ a^2 }{ d } $$

となります。

 なお、点 \(A\) と点 \(C\) の電荷が異符号なので、点 \(C’\) の影像電荷 \(Q^{\prime\prime}\) は、\( Q^{\prime\prime} = \frac{a}{d} Q \) と求まります。

(5)導体球に誘起される総電荷

 導体球が作る真空中の電界は、点 \(A’\) と点 \(C’\) の影像電荷による電界と一致します。したがって、導体球を囲む閉曲面にガウスの法則を適用すると、

\begin{eqnarray}
(導体球に誘起される総電荷)&=&(点 A’ と点 C’ の影像電荷の和) \\[7px]
&=& – \frac{a}{d} Q + \frac{a}{d} Q \\[7px]
&=& 0
\end{eqnarray}

と求められます。

電気影像法による電界分布再現

 この問題は、電荷と導体球が置かれたときに導体球に誘起される総電荷を求めていました。点電荷のみで電界分布を再現することで、総電荷を算出します。

(1)~(3)の電界分布

 左右の図の電界分布が同じなので、任意の位置でガウスの法則を適用しても等しくなるはずです。したがって、導体球を囲う閉曲面を考えると、誘起される総電荷は \(- \frac{a}{d}Q\) となることが分かります。

(4)~(5)の電界分布

 先ほどと同様に電界分布が同じため、導体球を囲う閉曲面を考えると誘起される総電荷が分かります。\(Q\) と \(-Q\) から誘起される電荷が相殺されるため、総電荷は0となります。