RC直列回路の過渡現象における定常値表現
2021年4月9日
問題
図のように、容量 \(C\) のコンデンサがスイッチを介して内部抵抗 \(r\) 、電圧 \(E\) の直列電源に接続されている。時刻 \(t=0\) でスイッチを閉じた。
以下ではコンデンサの電圧 \(v(t)\) の初期値が \(v(0)=0\) のとき、定常状態 \( (t=∞) \) の電圧 \(v(∞)\) は、\(E\) 、\(C\) 及び \(r\) の値が不明であっても、定常状態を待たずに時刻 \(t=T\) 、\(t=2T(T>0)\) での電圧 \(v(T)\) 、\(v(2T)\) から求められることを示す。
\(t ≧ 0\) におけるコンデンサの電圧 \(v(t)\) の微分方程式は \( \fbox { (1) } \) で与えられる。回路の時定数 \(τ\) は、\(τ=\fbox { (2) }\) である。一般に、\(v(t)\) の初期値を \(v(0)\) 、定常状態の値を \(v(∞)\) とすると \( \fbox { (1) } \) の解は、
$$ v(t)=\fbox { (3) } +v(0)e^{-t/τ} \tag*{①}$$
で与えられる。
コンデンサの電圧 \(v(t)\) の初期値が \(v(0)=0\) のとき、\(v(T)\) と \(v(2T)\) の比は①式より
$$ \frac{v(2T)}{v(T)}=\fbox { (4) } \tag*{②}$$
となる。②式より \(e^{-T/τ}\) を求め、これを \(t=T\) とおいた①式に代入すると、\(v(0)=0\)より、\(v(T)=v(∞)×(\ \fbox { (5) }\ )\) となる。この式より、\(v(∞)\) が \(v(T)\) と \(v(2T)\) の式で表すことが可能となる。

解答
(1)回路の微分方程式
コンデンサ \(C\) 、内部抵抗 \(r\) 及び電圧 \(E\) が直列電源に接続されているので、スイッチを閉じた後に回路に流れる電流を \(i(t)\) とするとキルヒホッフの法則より、
$$ E=ri(t)+v(t) \tag{1}$$
と表せます。

また、コンデンサに蓄えられる電荷を \(q(t)\) とすると、以下の式が成り立ちます。
$$
\left \{
\begin{array}{ll}
i(t) = \frac{d}{dt} q(t) \\[4px]
q(t) = Cv(t)
\end{array}
\right.
$$
したがって、これらを 式\((1)\) に代入すると、
\begin{eqnarray}
E &=& r \frac{d}{dt} q(t) + v(t) \\[3px]
&=& r \frac{d}{dt} Cv(t) + v(t) \\[3px]
&=& rC \frac{d}{dt} v(t) + v(t) \tag{2}
\end{eqnarray}
となります。
(2)回路の時定数 \(τ\)
RC回路の微分方程式の解は、定常解と過渡解の和で表されます。
定常解 \(v_1(t)\) は十分な時間が経過して電圧が時間変化しない状態を表します。時間変化がないので、微分方程式では \(\frac{d}{dt}=0\) と考えることができます。そのため 式\((2)\) は、
$$ v_1(t) = E $$
となります。
過渡解 \(v_2(t)\) は過渡時のみに発生する電圧を表しています。これは定数項を0にしたときの解になります。よって 式\((2)\) の \(E\) を \(0\) として解けばよいので、
$$ rC \frac{d}{dt} v_2(t) + v_2(t) = 0 $$
となり \( v_2(t) = Ae^{λt} \)(\(A\) は未定係数) と置くと、
\begin{eqnarray}
rC \frac{d}{dt} Ae^{λt} + Ae^{λt} &=& 0 \\[3px]
AλrCe^{λt} + Ae^{λt} &=& 0 \\[3px]
λrC + 1 &=& 0
\end{eqnarray}
\begin{eqnarray}
λ &=& – \frac{1}{rC} \\[3px]
v_2(t) &=& Ae^{ – \frac{t}{rC} }
\end{eqnarray}
となります。
したがって微分方程式の解 \(v(t)\) は、
$$ v(t) = v_1(t)+v_2(t) = E+Ae^{ – \frac{t}{rC} } \tag{3}$$
と求まり時定数 \(τ\) は、
$$ τ = rC $$
となります。
(3)初期値 \(v(0)\) と定常値 \(v(∞)\) による表現
\(t=0\) と \(t \rightarrow ∞ \) を 式\((3)\) に代入すると、初期値 \(v(0)\) と定常値 \(v(∞)\) はそれぞれ
$$
\left \{
\begin{array}{ll}
v(0) = E + A \\[4px]
v(∞) = E
\end{array}
\right.
$$
となります。これらを 式\((3)\) に代入すると、
\begin{eqnarray}
v(t) &=& E+ \left \{ v(0) – E \right \} e^{ – t/τ } \\[3px]
&=& E ( 1 – e^{ – t/τ } ) + v(0) e^{ – t/τ } \\[3px]
&=& v(∞) ( 1 – e^{- t/τ} ) + v(0) e^{- t/τ } \tag{4}
\end{eqnarray}
と変形できます。
(4)\(v(T)\) と \(v(2T)\) の比
式\((4)\) において \(v(0)=0\) として \(v(T)\) と \(v(2T)\) の比を取ると、
\begin{eqnarray}
\frac{v(2T)}{v(T)} &=& \frac{v(∞) ( 1 – e^{- 2T/τ } )}{v(∞) ( 1 – e^{- T/τ})} \\[3px]
&=& \frac{( 1 – e^{ – 2T/τ } )}{( 1 – e^{ – T/τ } )} \\[3px]
&=& \frac{ \{ 1 – ( e^{- T/τ } )^2 \} }{( 1 – e^{- T/τ } )} \\[3px]
&=& \frac{ ( 1 + e^{- T/τ } )( 1 – e^{- T/τ } ) }{( 1 – e^{ – T/τ } )} \\[3px]
&=& 1 + e^{ – T/τ } \tag{5}
\end{eqnarray}
と変形できます。
(5)\(v(∞)\) 、\(v(T)\) 及び \(v(2T)\) の関係式
\(v(0)=0\) と 式\((5)\) を 式\((4)\) に代入して \(t=T\) とすると、
\begin{eqnarray}
v(T) &=& v(∞) \{ \ 1 – ( \frac{v(2T)}{v(T)} -1 \ ) \} \\[3px]
&=& v(∞) ( \ 2 – \frac{v(2T)}{v(T)} \ )
\end{eqnarray}
となります。
微分方程式の別解と過渡応答の評価
ラプラス変換を用いた解法
式\((1)\) の微分方程式を解答では定常解と過渡解に分けて計算しました。ここではラプラス変換を使った解法を紹介します。ラプラス変換は微分を積に変換する数学的操作です。
式\((1)\) の各項をラプラス変換をすると以下のようになります。
$$
\left \{
\begin{array}{ll}
\mathcal{L}[v(t)] = V(s) \\[4px]
\mathcal{L}[\frac{d}{dt}v(t)] = sV(s)-v(0) \\[4px]
\mathcal{L}[1] = \frac{1}{s}
\end{array}
\right.
$$
したがって 式\((1)\) を \(τ=rC\) としてラプラス変換すると、
\begin{eqnarray}
τ \{ sV(s)-v(0) \} + V(s) &=& \frac{E}{s} \\[3px]
(τs+1)V(s) &=& \frac{E}{s} +τv(0) \\[3px]
\end{eqnarray}
\begin{eqnarray}
V(s) &=& \frac{E}{s(τs+1)} +\frac{τv(0)}{τs+1} \\[3px]
&=& E \ \frac{1}{s(τs+1)} +\frac{v(0)}{s+1/τ} \\[3px]
\end{eqnarray}
ここで第一項に部分分数分解を用いると、
\begin{eqnarray}
V(s) &=& E \ ( \frac{1}{s} \ – \ \frac{τ}{τs+1} ) +\frac{v(0)}{s+1/τ} \\[3px]
&=& E \ ( \frac{1}{s} \ – \ \frac{1}{s+1/τ} ) +\frac{v(0)}{s+1/τ} \\[3px]
\end{eqnarray}
ここで、\( \mathcal{L}[e^{at}] = \frac{1}{s-a} \) より、ラプラス逆変換すると、
$$ v(t) = E \ (1-e^{-t/τ}) + v(0)e^{-t/τ} $$
となり、式\((4)\) と同じになります。
時定数 \(τ\) の意味
RC回路において時定数 \(τ\) は過渡応答速度の指標を表します。入力が変化したときに回路が定常状態に達する時間が早ければ過渡応答が良いと判断します。下の2つグラフはともにRC回路のにおけるコンデンサ電圧 \(v(t)\) の過渡応答ですが、時定数 \(τ=rC\) が小さいほうが早く上昇しています。
式\((4)\) において、\(v(0)=0\) 、\(t=τ\) とすると、
$$ v(τ) = v(∞)(1-e^{-1}) = v(∞)(1-0.368) = 0.632v(∞) $$
となり、時刻 \(t=τ\) では定常値 \(v(∞)\) の 63.2% となります。時定数 \(τ\) は、入力が変化してから出力が定常値の 63.2% となるまでの時間を表します。したがって \(τ\) が小さいほど定常値に早く収束するので過渡応答が良いと言えます。
